2020年4月より、かねてより検討されていた大学無償化がスタートしました。
ふたを開けてみると…
- 「【無償化】じゃないじゃん!」
- 「非課税世帯だけずるい」
などの問題点を指摘する声が後を絶たず、制度の見直しが期待されています。
そこで今回は、大学無償化の条件や、「ずるい」と言われる理由と、申し込み方法や申請を忘れていた方向けの対処法など、全てまとめてみました。
記事作成時の2020年12月20日現在の情報であること、今後改変の可能性があることをあらかじめご了承ください。
大学無償化の条件や、手続き忘れていたという方は参考にしてください。
も・く・じ
大学無償化の条件
大学無償化とは?
大学無償化は、正しくは「高等教育無償化」と言います。
平成31年度の日本金融政策公庫の調査によると、高校入学から大学卒業までにかかる学生1人当たりの費用総額は935.3万円で、自宅外の学生への仕送り平均は、1年に91万円となりました。
世帯年収200~400万円世帯では、家計の約32%もの費用負担がかかっていることが明らかになりました。
そこで、「大学」「短大」「専門学校」「高等専門学校」にかかる費用を国と日本学生支援機構が支援してくれる制度ができたのです。
貧しいからと学びをあきらめる世帯が出ないための措置です。
具体的には、
- 授業料及び入学金の減免(文部科学省より)
- 給付型奨学金の支給(日本学生支援機構より)
の2つの支援を世帯所得によって学生が受けることができます。
これまでは、経済的に厳しい状況の学生は、無利子もしくは有利子の奨学金制度を利用して、卒業後に長期間の返済を強いられていました。
「高等教育無償化」は返済義務のない給付型奨学金と、授業料減免制度による支援なので、制度を利用する学生が、その後返済に追われることもなく、安心して勉強に取り組むことができます。
財源は?
「高等教育無償化(大学無償化)」の財源は、少子化対策の一環として、消費税率引き上げによる財源を活用しているとされています。引用元:文科省Pdfファイル
対象となる学生の条件は?
「高等教育無償化(大学無償化)」の対象となる学生は、「学力」と「世帯収入」で決められます。
- 学力…高校の全科目の5段階評価の平均値が3.5以上であること。面談やレポート提出により、将来活躍する目標をもって学修意欲を有することを申告。
- 世帯収入…住民税非課税世帯及び、それに準ずる世帯の学生が「高等教育無償化」の対象となります。年収380万円(家族人数で変わる)までの世帯。
2020年4月に支給開始ですが、在学生も同じタイミングで申請して受給することができます。(手続き忘れていた方はこちら)
全学生の約2割もの学生が対象となる見込みです。
いくらもらえるの?
授業料の支給は以下の図の通りになります。国公立の大学であれば、入学金と授業料がほぼすべて免除となり、私立大学は学校によって差がありますが、7割ほどをカバーする見通しです。
上の図は高等教育無償化の概要から引用したもので、住民税非課税世帯への支給額を示しています。
また、上記の授業料とは別に、返済の必要がない給付型奨学金が、日本学生支援機構より以下の図の通りに支給されます。
自宅か?自宅外か?私立か?国公立か?によって金額が10数万単位で変わります。生活費全てをカバーするものではありませんが、今までアルバイトで賄っていた苦学生を思うと、行き届いた支援ですね。
これによって短大や専門学校ではなく、大学に進む学生も増えそうですよね。
他の奨学金と併用して受けることができるか?
「高等教育無償化(大学無償化)」は他の奨学金と併用して受けることはできますが、支援区分に応じて受けられる金額が制限されます。
日本学生支援機構以外からの奨学金の需給に関しては、各奨学金制度を行っている媒体によって、支給のルールが変わります。
海外の大学はOK?
文部科学省の「高等教育無償化(大学無償化)」の対象校を検索できるページ(こちら)で探してみましたが、海外の大学は対象外とされています。今後対象学校が拡大するにあたり、海外の大学も視野に入るかもしれませんが、まだ期待の段階ですね。
大学無償化を受ける場合の注意点
「世帯収入」は夫婦合算?世帯主のみ?
「高等教育無償化(大学無償化)」の対象となる「世帯年収」は、夫婦共働きの場合は、収益の少ない方の住民税が課税か非課税かによって変わります。
- 夫年収380万円+妻年収100万円(←妻は住民税非課税)=大学無償化の世帯所得は380万円とされる。→無償化の対象!
- 夫年収380万円+妻年収103万円以上(←妻は住民税かかる)=世帯所得は483万円とされる。→無償化の対象外…
「高等教育無償化(大学無償化)」の対象ぎりぎりの「世帯年収380万円」のラインで極端な例を挙げてみました。妻がパートで稼いだ年収が住民税非課税化どうかによって、世帯年収に合算されるかが決まります。
所得税が非課税になる年収103万円ラインは有名ですが、住民税が非課税になる年収100万円ラインは知られていないため、「高等教育無償化(大学無償化)」を受ける見込みのある世帯は注意しましょう。
夫婦でママがパートに出る場合は、年収100万円を超えないように注意してくださいね。
学生自身のバイト代があった場合・・・
奨学金や支援を受ける学生さん自身がバイトなどをしている場合もありますよね。
その場合、学生さんが市町村民税を払っているかどうかが、「高等教育無償化(大学無償化)」の申し込みに関わってきます。
課税対象の場合は、申請時に「学生さん本人の課税証明書」をあわせて提出する必要があるため、お忘れなく!
※ただし未成年でも結婚している場合(婚姻歴がある場合)は「成年」の方に該当するのでご注意くださいね。
また、申請してせっかく支援を受けても、急に打ち切られることがあるので以下の「打ち切りの原因」もご確認くださいね。
大学無償化の支援が途中で打ち切られることがある
当然ですが、「高等教育無償化(大学無償化)」は大学で学ぶ意欲のある学生のための支援なので、
学ぶ意欲がないと判断されたら、途中で打ち切られます。
「どこでそれを判断されるの?」と言うと…
- 退学・定額の処分を受けた場合(なお、その態様が著しく不良であり、懲戒による退学処分など相応の理由がある場合には支援した額を徴収することができる。)
- 就業年限で卒業できないことが確定した場合
- 習得単位数が標準の5割以下の場合
- 出席率が5割以下など、学習意欲が著しく低いと大学などが判断した場合
たまにニュースで見かける学生の飲み会などで起きた事件加担などでの退学処分の場合などは、支援された額を返さねばならない、ということですね。
上記の「直ちに支援打ち切り」の前段階として、警告のケースも紹介しておきます。
- 修得単位数が標準の6割以下の場合
- GPA(平均成績)等が下位4分の1の場合(斟酌すべきやむを得ない事情がある場合の特例措置を検討中)
- 出席率が8割以下など学習意欲が低いと大学等が判断した場合
大学無償化「ずるい」「不公平」と言われるのはなぜ?◎つの問題点…
大学無償化について「ずるい」「不公平」という声が目につくかと思われます。低所得世帯の子どもにも、勉強や資格取得の機会を与えるいい制度に思えるのに、「ずるい」という声が挙がるのはなぜ?と思いますよね。
大学無償化が「ずるい」と言われる理由は、私の主観ですが2つあります。
低所得世帯に有利すぎるから
引用元:日本学生支援機構
- 私立の大学に行く、住民税非課税世帯の自宅外から通学する学生の場合…
【入学金26万円】+【授業料70万円×4年間】+【給付型奨学金91万円×4年間】=約670万円の支援を受けられます。蓮入学金を抜いた年間支援金は161万円。この差は確かにものすごく大きいですよね。
仮に年収400万円の世帯だったとすると…この670万円は世帯負担となりますよね。そのあまりの差額の大きさに、年収380万円のボーダーラインよりも少し上の世帯から「ずるい」との声が挙がるのです。
第Ⅱ区分と第Ⅲ区分と住民税非課税世帯の支援金に差がありすぎるから
- 私立の大学に行く、住民税非課税世帯の自宅外から通学する学生の場合…
【入学金26万円】+【授業料70万円×4年間】+【給付型奨学金91万円×4年間】=約670万円の支援を受けられる - 私立の大学に行く、世帯年収380万円の自宅外から通学する学生の場合…
約233万円の支援を受けられる蓮世帯年収380万円と270万円では、四年間で受け取れる総支給額に437万円も開きがあるんです。4年間での年収差も440万円になるんですよね。
世帯年収は110万円の差なのに、年間の支援額は109万円も変わってくるんです。
110万円と109万円…この差がどんな危険を産むか、不安が浮かび上がります。
働かなくなる人が増える
住民税非課税世帯には、様々な事情を抱えた方が多いため、単純に不平等さだけを訴えるわけにはいきません。しかし、年収380万円世帯からすると、「例え年収が110万円下がっても、その分大学の費用は支援してもらえる」と思うかもしれません。
仕事をセーブして働かないことを選択する人も、中には出てくるかもしれません。
しかし国の支援に頼る人が増えると、社会制度そのものが崩壊する上に、
この支援ではカバーしきれないほど学生にはお金がかかるため、年収を下げることのリスクの方が大きいんです。
働いて稼げる環境があることを幸せと思いましょう。
大学無償化の申し込み方法
大学無償化の詳しい申し込み方法は、在学している高校または大学によって、異なります。時期に関しても差があるため、在学している学校に聞いてみてください。
その際に必ず、父または母と、本人のマイナンバーカードが必要となるため、事前に用意しておきましょう。
大学無償化の申請時期(スケジュール)
引用元:日本学生支援機構
2020年度のみは支給開始年ということもあり、申請時期に差がありましたが、翌年の2021年度の支援からは「支給してほしい月から1年1か月前に行動を開始する」と覚えておきましょう。
- 2020年3月:自分が支援の該当者か、日本学生支援機構HPで確認する
- 4月:学校に問い合わせる
- 4月~(学校によって異なる):必要書類をそろえて学校に提出&インターネットで申し込み&マイナンバーをJASSOに提出する
- 10月:通知が届く
- 2021年4月:入学&ネットで進学届を提出&進学した学校に入学金と授業料の減免を申請
- 4~5月:入学金と授業料の減免と、奨学金の給付スタート
大学無償化の決定通知はいつもらえる?
4月~(学校によって時期が異なる)に申し込みをすると、同年の10月ごろに決定通知が届きます。
注意すべきは、これで完了ではないということです。10月の時点では、行きたい大学の入試試験がまだ行われていないため、
その大学に合格して入学した後に、本申請を自分で行う必要があります!
大学無償化の手続き忘れた…どうする?
上に「1年1か月前から動きましょう」と勧めましたが、「高等教育無償化(大学無償化)」の制度自体が始まったばかりです。知らずに申請時期を過ぎていた!という方もいますよね。
そんな方は「在学中受付」といい、通っている大学に問い合わせることで中途から支援を受けることも可能です。(もちろん対象だった場合)前年度分までさかのぼっての支援を受けることはできませんが、例えば5月申請で6月から受給できる場合は、6月に「4月分+5月分+6月分」が振り込まれる仕組みです。
ちなみに、今年は収益があって受給対象から漏れても、次年度から世帯年収が減れば、受給対象になることもあります。大学の途中でも年収が減ったご家庭は、学校に問い合わせてみましょう。
さいごに
私が出会ってきたひとり親世帯の方はみな、死ぬまで働き続ける覚悟ができています。
しかし家計が苦しいからと、子ども自身が高校や大学時代にアルバイトをかけ持ちなどする例も多く、せっかく進学できても勉強時間を労働時間に取られるケースは多々あります。
そうした子ども自身が平等に学ぶ時間を得るための、今回の「高等教育無償化(大学無償化)」の制度だと思うので、不正利用や世帯収入を落とす人が出ず、本当に必要な世帯に、この制度が届くことを願います。